カッコよくて、乗り心地がよくて、さらに燃費もいい。そんな理想のクルマ、なかなか世の中にはないものです。必ずどこかを妥協しなきゃいけない。それがことさら輸入車でとなると、ハードルは一気に高くなります。でも、そんな夢のクルマに限りなく近づいたクルマが登場しました。それが、今回紹介する「フィアット 600(セイチェント)ハイブリッド」。正真正銘のイタリア車ですが、今までの常識がまったく覆されるほどの実力を秘めたクルマでした。

◆マイルドハイブリッド“なのに”?
いやいや、イタリア車で燃費がいいなんてどうせまたウソでしょ? と思った、クルマ好きなあなた。その考えは決して間違いではありません。しかし、この写真を見ても、そんなことがいえるでしょうか? 23.8km/Lという燃費計の数字は、紛れもなくこの600ハイブリッドに乗って記録した実測燃費。まずは、一番気になる燃費の秘密から解説していきましょう。

なぜ燃費のことから話し始めているのかといえば、その意外性に尽きるといえます。前述のデータは、じつは高速道路で記録した実測燃費なのです。ハイブリッドカーは一般的に、高速燃費があまり得意ではありません。だからこそ特筆すべきなのです。600ハイブリッドは、その名の通りガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドカー。分類的には、簡易型のマイルドハイブリッド(MHEV)に分けられます。
MHEVは街中のストップ&ゴーには有効ですが、こと高速道路のクルージングでは電動走行がほぼ生かされないのが定説。ということは? そうです。エンジン自体の燃費性能が非常に優れているということなのです。600ハイブリッドが搭載するエンジンは、ステランティスグループの中でも旧PSA(プジョーシトロエン)側がコンパクトカー用に開発した1.2Lの3気筒ガソリンターボ。これに2モーター式のマイルドハイブリッドシステムを組み込んでいます。このエンジンこそが、好燃費を叩き出した立役者なのです。

今回ルートとして選んだのは、都心から西へ向かう東名高速道路。新東名の新秦野インターまでを往復する、約100kmのショートツーリングでの実測結果です。スピードは、周りの大型車に合わせた90km/hをなるべくキープし、周りの流れを邪魔しないようなごく一般的な走り方で、特別燃費走行をしているわけではありません。しかし、230Nmのゆとりあるトルクが余裕の走りを披露。1300kg台という軽量な車体も奏功し、実測でカタログ値(WLTCの高速道路モードで22.3km/L)を上まわりました。

対して一般道での燃費は、カタログ値までは届かず20km/Lを少し下まわるほど。これは、最近の欧州車が多く搭載している「コースティング」モードがないからかもしれません。コースティングは、回生ブレーキなどを効かせずニュートラルに近い形で航続距離を伸ばす機能ですが、代わりに600ハイブリッドは回生ブレーキをしっかり機能させバッテリーの充電を頻繁に行います。実際に、20km/h以下の走行はほぼ電気モーターが担っていました。アクセルのオンオフを繰り返す場面では、コースティングよりも有効に働き燃費も伸びるでしょう。

「燃費がいい」とオフィシャルサイトでも謳っていますが、これは偽りない事実。場面によっては、国産ハイブリッドをも凌ぐことも十分考えられます。MHEV、侮りがたしです。最新欧州車の実力が垣間見れた部分でした。
◆特筆すべき快適性
このクルマの魅力は燃費だけではありません。フラットでしなやかな乗り心地も特筆すべき点だといえます。そのレベルは、Bセグメントのコンパクトカーとは思えないほど。ワンランク以上上のクラスの車格に匹敵するクオリティを感じられます。

特に頭をゆすられない乗り心地の良さが、低・中速域だけではなく高速域でも保たれている点には驚きました。同じクラスの国産SUVでは、あまり考慮されない高速域での乗り心地。新東名の120km/h区間でも腰砕けになることは一度もありませんでした。加えて座り心地のいいシートも備えているため、疲労感が少なく感じました。これらの部分が良くなると、一気に遠出したくなるものです。

乗り心地のよさは、サスペンションの性能とシャシー剛性の高さがうまくバランスされているからです。600ハイブリッドは、プラットフォーム「CMP(コモン・モジュラー・プラットフォーム)」を採用している点が従来のフィアット車と大きく違うところ。前任にあたる500Xがジープ レネゲードと同じシャシーだったのに対し、600ハイブリッドはプジョー 208や2008、シトロエン C4、DS3などと同じシャシーの兄弟車といえます。
乗り心地に定評のあるCMP採用車ですが、600ハイブリッドはさらに進化した最新アップデート版を使用しています。改良度合いが感じられる部分は、乗り心地ももちろんですが、むしろ静粛性のほうが大きく感じるかもしれません。

先述したクオリティの高さはこの静粛性が由来となる部分も多く、走り出しからスムーズに加速していく反面で不快な騒音がほとんど感じられません。エンジンが始動するタイミングですら気づかないほどです。風切り音やロードノイズもしっかりと対策されているため、いいクルマに乗っている感が一番感じられる部分かもしれません。この快適性は、オーナーの満足度を高めてくれるポイントとなるでしょう。
◆国産勢も油断できない優等生
非常に高レベルな完成度を見せてくれる600ハイブリッドの中身でしたが、最大の魅力といえばやはりオシャレな内外装デザイン。国産車では絶対に得られない、輸入車を選ぶ最大の理由ともいえる点です。

可愛らしくもカッコいいエクステリアデザインは、500シリーズに通づる伝統のフィアットらしさと、新世代アイコンの「ピクセルパターン」をうまく融合させています。ボディサイズは全長4200×全幅1780×全高1595(単位はmm)と、日本の道路でも使いやすいサイズにまとまっている点も嬉しいポイントです。

インテリアにも、モダンと伝統をうまく両立したデザインが採用され、さすがイタリア車ともいうべきオシャレな空間が広がります。座り心地のいい大型のシートにはFIATロゴのモノグラムが施され、コックピット周辺はシンプルなモダンデザインでまとめられています。10.25インチのセンターディスプレイには、最新のインフォテインメントシステムが内蔵され、スマートフォン連携ももちろん標準装備。快適なドライブを約束してくれるでしょう。


このように全方位で優等生なイタリアンSUVの、600ハイブリッド。あえて欠点を挙げるとすれば、スマホ連携が有線のみとか、シフトスイッチに慣れが必要だなどの小さな点のみです。この完成度のオシャレなSUVが400万円以下から用意されているとなると、輸入車だけでなく国産SUVを検討していた人も視野に入ってくるでしょう。ありきたりな国産車に飽き飽きしている人には、ぜひオススメしたい1台だといえます。
<文&写真=青山朋弘>
■フィアット 600ハイブリッド ラ プリマ(FF・6速DCT)

主要諸元
【寸法・重量】
全長:4200mm
全幅:1780mm
全高:1595mm
ホイールベース:2560mm
トレッド:前1535/後1525mm
車両重量:1330kg
乗車定員:5人
【パワートレーン・性能】
エンジン型式:HN09-ZA03
エンジン種類:直3DOHCターボ
ボア×ストローク:75.0×90.5mm
圧縮比:11.5
総排気量:1199cc
最高出力:100kW(136ps)/5500rpm
最大トルク:230Nm(23.5kgm)/1750rpm
使用燃料・タンク容量:プレミアム・44ℓ
モーター型式:ZA03
モーター種類:交流同期電動機
最高出力:16kW(21.8ps)
最大トルク:51Nm(5.2kgm)
バッテリー種類:リチウムイオン
WLTCモード燃費:23.0km/ℓ
最小回転半径:5.3m
【諸装置】
サスペンション:前ストラット/後トーションビーム
ブレーキ:前Vディスク/後ディスク
タイヤ:前後215/55R18
【価格】
419万円(消費税率10%込み)