フェラーリといえば12気筒。古くからのフェラーリを知る人ほど、こう考える人は多いのかもしれません。創業時からブランドの象徴として、絶えずラインナップされてきたマルチシリンダーユニット。F1直系の珠玉のエンジンが奏でるエグゾーストノートは、いつの時代も世界中のファンを魅了してきました。

今回紹介する「12(ドーディチ)チリンドリ」は、その名の通りイタリア語で“12気筒”を表す車名。そんな最新フェラーリのV12モデルに乗る、貴重な機会に恵まれました。
◆このエンジンがどれだけ貴重な存在か!
1990年代後半に登場した「550 マラネロ」以来、フェラーリラインナップの頂点に君臨してきた、V12搭載の2シーターFRスポーツ。12チリンドリは、その最新モデルとなります。歴代モデル同様この12チリンドリにも、V12の自然吸気(NA)エンジンを搭載。F140型と呼ばれるV12ユニットは、「エンツォ フェラーリ」から20年以上に渡って進化を続けてきたフェラーリの象徴ともいえるエンジンです。6.5Lの65度V型12気筒は、830馬力/678Nmを発揮し、8速のDCTを介して後輪を駆動します。

この環境に対して厳しい時代においても、他社も含め12気筒エンジンは少なからずとも存在しています。しかし、ランボルギーニやアストンマーティンなどの他ブランドがターボなどの過給機やモーターをプラスしているのに対し、フェラーリのF140型は世界で唯一のNAエンジン。乗ってみて最初に驚いたのは、その吹けあがりのスムーズさでした。

フェラーリがなぜ、12気筒とNAという組み合わせを頑なに守り続けてきたのか。それは乗ればわかります。最高回転数が9500rpmに設定されていることからも、12チリンドリのF140型はかなり高回転寄りのセッティング。正直こんなによく回る12気筒エンジンは、今まで出会ったことがありません。しいて言うなら、ロータリーエンジンのようなスムーズさとでもいいましょうか。高回転まで抵抗なくきれいに回る滑らかさは、純レーシングエンジンを想像させます。

そして高回転になればなるほど官能的になるエンジンサウンドも、大きな特徴といえるでしょう。普段オートで走っている分には決して主張してこないエンジンは、マニュアルモードに切り替えて高回転まで回すと様変わりします。サウンドというよりもミュージックと表現したくなるほど、気持ちのいいエグゾーストノート。同型のエンジンを積む、どちらといえばトルク重視の「プロサングエ」とはまた違った、ジェントルとレーシーの両立。これこそ12チリンドリの最大の魅力だといえます。
このエンジンの魅力を味わったあとには、心底オーナーになれる人が羨ましくなります。それだけ、この希代の12気筒には魅力と価値があります。
◆V12をフロントに搭載しているとは思えないほど
ジェントルとレーシーという二面性は、乗り心地面にも表れていました。電子制御ダンパーの“マグネティックライド”は、絶妙な乗り心地を提供してくれ、一番ソフトなドライブモードの「WET」では快適そのもの。フェラーリのようなピュアスポーツカーの外観からはあまり想像できない、いわゆるGT仕様ともいうべき快適さが味わえます。

しかし、ひと度「SPORT」に切り替えれば、サスペンションは硬めになりスポーツドライビングを楽しめるモードへと瞬時に変化します。重たいV12ユニットが前に乗っているとは到底思えないほど、俊敏なハンドリング性能。これが本当のフロントミッドシップなのかと、驚く瞬間です。先代「812スーパーファスト」から引き継がれた4WS(後輪操舵)も相まって、まるでライトウエイトスポーツに乗っているかと錯覚するほど軽やかで、オン・ザ・レールの感覚。ワインディングでは格別な楽しさを提供してくれます。

ドライブモードセレクトの「マネッティーノ」には、もちろんサーキット専用モードの「RACE」も備えています。ステアリング上のダイアルスイッチでいつでも切替できますので、普段使いから趣味のサーキット走行まで1台で完結してしまうという点も、12チリンドリの魅力かもしれません。
◆これこそフェラーリ! と感じる独自性
フェラーリというクルマは、いつの時代も所有欲を満たしてくれるもの。その要素の一つに、美しいデザインが挙げられます。

昨今のフェラーリは、過去のレジェンドモデルへのオマージュも含めた、流麗なエクステリアに仕上がっていることが特徴。以前の、空力デバイスを前面に出したアグレッシブなデザインからは打って変わり、「ローマ」以降、「296シリーズ」、プロサングエ、そして12チリンドリと、エレガンスなフォルムへと変貌を遂げています。


12チリンドリは、往年の名車「356GTB/4(デイトナ)」へのオマージュが取り入れられていることもポイント。フロントの左右ヘッドライトをつなぐブラックバンドや、ロングノーズ・ショートデッキのフォルムから、あのデイトナを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。


リアには、デルタウイング形状のデザインを採用。左右後端にそれぞれ配されたスプリッタータイプの可変リアスポイラーは、60~300km/hの間で展開し、最適なダウンフォースを生み出します。この左右独立リアスポイラーの採用は、ラゲッジスペースへの影響を最小限に抑えられるというメリットもあり、GTモデルらしい積載量がしっかりと確保されていることも特徴です。

インテリアでは、最新フェラーリのデザイントレンドに則った左右独立タイプの“デュアル・コックピット”方式が目をひきます。ステアリングに操作系のほぼすべてを集中させるスタイルは、他のフェラーリ車と同様。コラム部から生える形状のスティック型のスイッチも廃され、ワイパーやウインカーなどのスイッチもすべてステアリング上に設置されている点は、フェラーリならではの特徴です。


メーターパネル内とセンタークラスターに加え、助手席側にもディスプレイを配置している点も最新フェラーリのデザイントレンド。12チリンドリでは、ディスプレイとエアコンのレジスターを一体にしたようなバイザー風のデザインが、左右両席に展開されています。このようなフェラーリならではの独自性は、オーナーの満足感が高まるポイントでもあります。
◆NA12気筒はこれが最後!?
812スーパーファストの後継として登場した12チリンドリですが、その実態はゴリッゴリのスーパースポーツではなく、GTカー的な要素が備わったエレガントなスポーツカーでした。キャラクターを変えてきた理由は、現在のフェラーリのラインナップに拠るところも大きいでしょう。

歴史的にもフェラーリのラインナップは、元々エンジンの大きさで2種類に別れていました。12気筒搭載モデルと8気筒の“ピッコロ”フェラーリです。現在でもアッパーとスモールで大きく2種に分けられますが、アッパークラスには現在「849テスタロッサ」を頂点に、12チリンドリとプロサングエがラインナップされています。

849テスタロッサが、スーパースポーツという従来通りのフェラーリフラッグシップとして位置するのに対し、4シーターGTモデルとしてはプロサングエが存在。12チリンドリは、伝統的な2シーターFRスポーツでありながら、この2車種の中間的な性格を持っていると考えられます。

そして、12チリンドリは伝統のNA V12を搭載する最後のモデルとも噂されています。そうなると、フェラーリのベルリネッタ史に名を残す存在となることは間違いありませんし、市場での価値も高騰します。リセールに関しても、その希少性から今後も通常のフェラーリモデルよりむしろ高額で取引されるでしょう。
<文=青山朋弘 写真=フェラーリ/青山朋弘>
■フェラーリ 12チリンドリ(FR・8速DCT)

主要諸元
【寸法・重量】
全長:4733mm
全幅:2176mm
全高:1292mm
ホイールベース:2700mm
トレッド:前1686/後1645mm
車両重量:1560kg
乗車定員:2人
【エンジン・性能】
型式:F140HD
種類:V12DOHC
ボア×ストローク:94.0×78.0mm
圧縮比:13.5
総排気量:6496cc
最高出力:610kW(830ps)/9250rpm
最大トルク:678Nm(69.1kgm)/7250rpm
使用燃料・タンク容量:プレミアム・92ℓ
【諸装置】
タイヤ:前275/35R21/後315/35R21
【価格】
5674万円




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