◆いまだにHEVは日本車が優勢
すでに国産車では低燃費エコカーの代名詞的存在ともいえる、ハイブリッドカー(HEV)。ガソリンエンジンなどの内燃機関と、電気モーターを組み合わせたパワートレインを総じてハイブリッドと呼びますが、トヨタが量産車初のHEVとして初代プリウスを発売して以来、すでに四半世紀が過ぎました。いまだに世界的なシェアは日本のメーカーが優勢で、トヨタ、日産、ホンダ、三菱など、多くのメーカーが世界中にHEVのシェアを拡大しています。
対して欧州メーカーをはじめとする海外ブランド勢は、トルクフルかつ燃費に優れるクリーンディーゼルで日本車のHEVに対抗します。しかし世界的規模でのディーゼルエンジン排ガス規制違反(ディーゼルゲート)が発覚すると、多くのメーカーがディーゼル車のラインナップを縮小。一足飛びでBEV(電気自動車)の開発へ舵を切り始めました。
世界中の多くのメーカーがBEVラインナップの拡大を高らかに宣言し、クルマはBEV一極化へ進むかとも思われました。しかし、最近ではその流れも怪しい雲行きになってきています。インフラの整備やバッテリー技術の進化が想定以上に進まない現状を踏まえ、BEV一辺倒ではなかなか難しいという声も聞かれ始めました。
最近のメーカーリリースには電動化や電動車という言葉が多く使われていますが、これはなにもBEVばかりのことではありません。PHEV(プラグインハイブリッドカー)を含めたHEVも、電気モーターを駆動に使っているため電動車に含まれます。ラインナップ上の電動車の割合を増やすという観点からも、PHEVやHEVはもはや無視できない存在になってきました。今までHEVに対して消極的だった欧州メーカーも、この数年で徐々にHEVをラインナップに増やしています。
◆F1の技術を使ったオリジナルシステム
今回試乗したルノー ルーテシアも、そのなかのひとつです。ご存知の通りルノーは、日産、三菱と提携するアライアンス会社。ハイブリッドシステムも日産や三菱のものが提供されているかと思われがちですが、じつはまったく独自で開発された、ルノーオリジナルのハイブリッドシステムを搭載します。しかもこのシステムは、モーターのアシスト量が簡易的なマイルドハイブリッドではなく、モーター走行の割合が大きいストロングハイブリッドシステム。ルノーでは、このシステムを「E-TECH FULL HYBRID」と呼んでいます。
Eテック フルハイブリッドは、トヨタやホンダのHEVと同様2つの電気モーターを使ったシステムで、方式も2社と同じシリーズ・パラレル式を採用。同じアライアンス内の日産(e-Power)はシリーズ式ですので、ここも差別化されています。モーター走行、エンジン走行、エンジン+モーター走行、エンジンでの充電のすべてが緻密に制御され走行状況によって最適化されますが、その構造は他に類を見ない特殊なものです。
エンジンとトランスミッション+モーターを繋ぐクラッチ部分に、F1のテクノロジーを応用させた電子制御ドグクラッチを使用するクラッチレス構造を採用。トランスミッションはエンジン側に4速、モーター側に2速のギヤを持ち、これらを12通りのギヤ比で組み合わせ、高効率かつ高レスポンスな走りがもたらされます。ルノーらしいキビキビした動力性能と、低燃費性能を両立させたシステムなのです。
ルノーの現在のラインナップではSUVのキャプチャーとアルカナにも搭載されていますが、今回はBセグメントのコンパクトカー、ルーテシアのEテック ハイブリッドで高速道路/一般道それぞれ燃費を計測。東京都内から愛知県までの高速道路の往復と、愛知県内の一般道でそれぞれ検証しました。輸入車No.1を謳っているその燃費性能はいかがなものでしょう。なお、ドライブモードはエコをチョイス。燃費データはメーター内の車載燃費計を元にしています。
◆高速走行時でも積極的!?
ちょうど西に向かう東名高速道路が集中工事の期間中だったこともあり、今回は中央道から富士五湖道路を経由して、御殿場から東名へ合流するルートを取りました。最初の宿泊地である、岡崎市までの約300kmで高速道路の燃費を測定します。
富士五湖道路の御殿場へ向かう長い下り坂では回生がずっと効きますので、バッテリーが満タン状態にまで充電できます。下り坂で充電できるのは、電動車ならでは。しかし、御殿場から新東名へ合流ししばらく走行すると、そのストック分もすぐに減ってしまいました。一般的なHEVの制御では高速走行時はエンジンでの走行がメインとなりますので、バッテリー残量はあまり減りません。どうやらこのルノーのハイブリッドシステムは、ほかとは違うようです。
行きの高速道路では新東名区間の110km/hをマックスに、80~90km/hをメインに走行しました。あまり低燃費走行にこだわらず、流れに乗る走り方です。ルノー Eテック フルハイブリッドの大きな特徴として、高速走行時でも積極的にEV走行へ切り替わる点が挙げられます。途中90km/hで走行していても、メーター内に“EV”の表示が点灯しEV走行に切り替わることがたびたび見られました。ここがルノーHEVの高速燃費が優れる大きな理由です。貯まったバッテリー電力がすぐに減ってしまうのは、このルノーならではの制御が原因なのです。
岡崎インターまでの316kmで24.4km/Lの燃費を記録。カタログ上でのWLTCの高速道路モード燃費が25.5km/Lですので、低燃費走行をしていないにも関わらずこの数値はなかなか優秀だといえるでしょう。翌日からは豊田市や岡崎市の一般道を中心に走行。渋滞から、速度帯の速い郊外の道路まで210kmを走り、平均燃費は19.6km/Lでした。WLTCの市街地モード燃費は21.9km/Lですので、カタログ数値より若干悪いくらいです。ここまでの計測結果だけだと「まあ、こんなもんか」と思うほど。しかし、帰りの高速道路でその考えは大きく変わることとなりました。
◆まさか!? クリーンディーゼルをも上まわる性能
帰路は、名古屋市内から名古屋高速4号線を南下し、伊勢湾岸道→新東名ルートを走行。時間帯が夜間ということもあり、速度はまわりの大型トラックに合わせて90km/hをマックスに設定しました。309kmを走行した計測結果は、なんと28.6km/Lをマーク。カタログスペックを大幅に上まわる結果となりました。
この結果は正直まったく予想していなかったので、筆者自身もかなり驚きでした。先日のクリーンディーゼル車、DS3をも上まわる高速燃費。こんなに燃費の伸びるガソリンエンジンの輸入車、今まであったでしょうか? さすが輸入車No.1を謳うだけのことはあります。燃費のいい輸入コンパクトをお探しなら、間違いなくオススメの筆頭にくるモデルでしょう。
ルーテシアのいい点は燃費だけではありません。乗り心地や室内空間の上質ぶりも目を見張るものがあります。乗った瞬間に感じる密閉感と静けさ、走りだした際の上質感や静粛性は、ひとつ上のCセグメントに匹敵するレベル。正直Cセグの国産車よりもいいのではと感じるほどです。
柔らかすぎず固すぎない絶妙なセッティングのサスペンションは、どの速度域でも快適なライドフィールを提供してくれます。アクセル操作にリニアに反応する加速力も、ストレス知らず。コーナリングも狙ったラインへピタッとクルマが向きを変えてくれ、ワインディングではドライブが楽しくなるでしょう。最近はBセグメントも性能がよくなっていますが、ルーテシアのレベルは世界でもトップクラスです。
◆国産コンパクトしか知らない人にぜひ!
そんな欠点知らずとも思えるルーテシアですが、インフォテインメントシステムはまだ発展途上といえます。日本仕様はナビゲーションが非設定。スマホ接続が必須(ミラーリング機能はもちろん完備)になります。本国ではすでにマイナーチェンジが実施されている点も、購入を躊躇させる要因となるかもしれません。
ただ、新型は入ってくるのが今のところ2024年末予定と、かなり先。まだ当分現行モデルの販売は継続されます。新しいフロントマスクも好みが別れるデザインとなっているため、新型を苦手だと感じたなら現行モデルを早めにオーダーしたほうがよさそうです。
まさに“近年まれに見る”ともいえるほど燃費性能が優れたフレンチコンパクトのルーテシア Eテック フルハイブリッド。 特に国産車のコンパクトカーしか知らない人に、ぜひ乗ってみてほしいモデルです。一度乗れば、そのよさはすぐにわかるでしょう。HEVではなくガソリンエンジンモデルもまだラインナップしていますので、ハイブリッド派ではない人にもオススメできる1台です。
<文&写真=青山朋弘>