2023年9月1日
政府が2023年8月9日に、ロシアに対する輸出規制の強化措置を発表しました。ウクライナ侵攻に伴う対ロシアへの経済制裁の一環ですが、アメリカやEU諸国とともに日本も足並みをそろえた形になります。対象品目は「化学工業生産品」「鉄鋼」「輸送品の機械およびその部分品」から758品目。「輸送品の機械およびその部分品」には、自動車(中古車)も含まれています。
◆ロシアで絶大なる人気を得ていた日本車
もともとロシアへの輸出規制は22年4月から始まっていて、600万円を超える高級車などの贅沢品が輸出禁止になっていました。今回はこの規制に追加制裁を行なった形です。規制対象は、「排気量1900cc超のガソリンエンジン車およびディーゼルエンジン車」「HEV(ハイブリッド車)」「PHEV(プラグインハイブリッド車)」「BEV(電気自動車)」。これにより、ロシアへは一部の小型自動車しか輸出できなくなりました。
上記の表を見ても分かるとおり、ロシア向けの中古車輸出を車名別でランキングすると上位を占めている車種がほぼ規制対象となっています。ロシアへは、ウクライナ侵攻が始まった直後に各自動車メーカーが新車の輸出をストップ。これは日本のメーカーだけでなく、欧州のメーカーも同じことでした。そうなると、大きな国産メーカーを持たないロシアの自動車市場は、輸入中古車に頼らざるを得なくなります。
そこで急激に需要が増えたのが、日本の中古車でした。ご存知のとおり、日本のクルマは壊れにくく丈夫なのにリーズナブルで、世界中から人気があります。ロシアでも、ここ最近は日本の中古車、なかでもHEVやPHEVの人気が異常なほど高まっていたようです。この異常な需要は、日本国内の輸出業者をはじめ中古車業界に少なからず潤いを与えていました。
そんな折での、今回の政府による一方的な輸出規制です。一体誰が一番損するかは、もうおわかりでしょう。
◆損をする人がいれば得をする人もいる
日本からロシアへの中古車輸出台数は、国別の仕向先ランキングでトップでした。今年に入ってからは、前年比でもプラスを記録し続け順調に台数を伸ばしていた、そんな矢先の出来事でした。輸出業者は、これからの利益が半減かそれ以下にまで落ち込むことが予想されています。そしてもっと先のことを見てみると、日本国内の中古車販売店がすべてこの影響を受けることになりそうなのです。
ロシアに出荷されていた年間何十万台という中古車は行き場をなくし、そのまま大半が国内の市場へと流れてきます。こうなると、需要と供給のバランスが一気に逆転する可能性が出てきます。これまでは新車の供給が滞っていたこともあり、中古車市場は高値で推移していました。それが一転、供給数が膨大になることで価格破壊が起こる可能性すら見えてきたのです。
折しも国内の中古車市場は、例の大手買取販売店の不正事件による大量の在庫車流出が影響し始めてきているところ。さらにこのロシア禁輸問題が重なり、この先中古車の台数は飽和状態となる可能性があります。これらの問題は、ダブルパンチとして近い将来中古車販売店にのしかかってくるでしょう。
しかし、逆を言えば中古車を購入するユーザーからすれば、またとないチャンスでもあります。豊富な在庫から好みな1台を探すことも、今よりもお得に購入することも叶うかもしれません。狙っているクルマがあるのなら、この8月以降の相場の動向は注意深くチェックする必要がありそうです。
<文=青山朋弘>