FIA 世界ラリー選手権(WRC)の2024年が、今年もラリー・モンテカルロで開幕。1月25~28日の4日間、フランス南部の都市ギャップを中心に、フレンチアルプスを舞台にしたシーズン屈指の難ステージを最新ラリーカーが駆け抜けました。ラリーは、ヒョンデのティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ組が総合優勝を飾っています。
■ラリー1カーで争われるWRC
WRCとはラリー競技で世界最高峰のシリーズ。1973年に始まり、多くのメーカーや選手が参戦してきました。日本のメーカーも1980~90年代にかけてさまざまなメーカーが挑戦してきましたが、現在はトヨタのみがワークス参戦しています。
現在のトップカテゴリーは「ラリー1」と呼ばれるプロトタイプカーで争われ、トヨタのほかにヒョンデとMスポーツフォードがエントリーしています。外見は市販車に似せている部分もありますが、ラリー1カーの中身はほぼ別物。パイプフレーム構造のシャシーにボディを架装し、規定で定められた全チーム共通のハイブリッドシステムを搭載しています。
エンジンとモーターを合わせたシステム総出力は、500ps/500Nmオーバー。1260kgという車重も相まって、その速さは前規定のWR(ワールドラリー)カーを大幅に上まわります。22年からスタートし3年目を迎えたラリー1規定ですが、今年24年も参加マニュファクチャラーは変わらず。3メーカーでチャンピオンシップが争われます。
■シーズン屈指の難易度
開幕戦は例年通りモンテカルロ。このラリーはWRCカレンダーの中でもっとも歴史が長く、シーズン中でも特殊なラリーに分類されます。特殊な点というのは路面のサーフェイスで、冬のアルプスを舞台にするためターマック(舗装路)を基本に、ドライ、ウエット、そしてスノー、アイスが入り乱れるという状態。次から次へと変わっていくサーフェイスは、スタート前のタイヤ選択ひとつが命取りになる可能性もあり、参戦するクルーやチームの頭を悩ませる非常に難易度の高いラリーといえます。
WRCカレンダーの中でも屈指の難易度を誇るため、歴代のモンテカルロウイナーはほかのラリーよりも讃えられる傾向にあります。そのなかでも8回のWRC王座に輝き、現役最速ドライバーとして名高いトヨタのセバスチャン・オジエは、モンテカルロ通算9勝という記録を持っています。もちろんこの記録は歴代最多勝。そして今年のモンテカルロも、このオジエを中心とした3人のドライバーによって優勝が争われました。
初日デイ1は夕方のモナコでのセレモニアルスタートを終え、クルーたちはそのまま2つのナイトステージに向かいました。どちらも20kmを超えるロングステージとなったデイ1を制したのは、オジエのチームメイトのエルフィン・エヴァンス(トヨタ)。エヴァンスはステージ2本ともトップタイムをマークし、2位のヌービルに早くも15秒以上の差をつけます。オジエは、エヴァンスから21.6秒差の3位につけ初日を終えました。
しかし翌日からは、ヌービルとオジエが速さを見せ始めます。午前と午後で3本づつの計6SS(スペシャルステージ=競技区間)で争われたデイ2。ステージベストはオジエとヌービルが3回づつで分け合い、わずかに速かったオジエがヌービルをかわし2位に浮上します。エヴァンスはトップタイムこそ獲れませんでしたが、常にトップ3に入る安定感を見せ総合首位をキープ。しかしタイム差は前日よりも縮まり、2位オジエとは4.5秒、3位ヌービルとは16.1秒差でした。
■首位エヴァンスがトラブルで後退
土曜日のデイ3。首位のエヴァンスをトラブルが襲います。SS10でハイブリッドブーストが効かないアクシデントが発生し、エヴァンスのGRヤリスはエンジン出力だけで走ることとなりました。このステージトップタイムのオジエから9.5秒遅れ、8位でフィニッシュしたエヴァンスは首位陥落。
代わりに首位へ立ったのは、SS9で10秒近く後続を離しステージベストを獲ったヌービルでした。エヴァンスはその後もスピードに乗れず、総合3位にまで後退してしまいます。首位ヌービル、2位オジエの差はたったの3.3秒。そしてラリーは最終日を迎えます。
オジエのモンテカルロ10勝目という大記録が達成されるのか、注目のなか始まったラリー最終日デイ4。用意された3つのSSすべてを制したのは、ヌービルでした。この日最初のSS15でトップタイムを奪ったヌービル。このステージだけで2番時計のオジエと4.7秒差をつけ、両者の差は8.0秒に広がりました。その後もヌービルは手綱を緩めることなく、最終的には2位オジエに16.1秒差をつけフィニッシュを迎えました。
今年のモンテカルロは雪が例年よりも大幅に少なく気温も高めだったため、スノーとアイスの路面が多く見られませんでした。しかし、トリッキーな路面コンディションはクルーを苦しめるには十分でした。そんななかでも、最後まで集中を切らさなかったヌービル。自身2度目のモンテカルロ制覇です。
総合2位はオジエ、3位にはエヴァンスが続き、トヨタはダブルポディウムを獲得。マニュファクチャラーズ選手権ではヒョンデを1ポイントだけ上まわり、選手権リーダーとなっています。
■勝田はスタックで5分をロス
WRCのトップカテゴリーでは唯一の日本人ドライバーとして参戦している勝田貴元は、今季もトヨタからエントリーしています。なかなかいいセッティングが見つからないままスタートしたデイ2のSS3で、いきなり出鼻をくじかれてしまいました。凍った路面に乗ってしまいコーナーを曲がりきれず、コース脇の雪にスタック。脱出まで5分以上をロスしてしまい、総合19位までポジションを下げてしまいました。
しかしその後は挽回するべく力強い走りを見せ、セッティングが決まってきたデイ3ではSS10、11、12の3ステージ連続で3番手タイムをマーク。名物チュリニ峠を走った最終ステージでも3位を獲得するなど、速さを見せました。最終的には総合7位まで順位を上げてフィニッシュしています。
WRCの次戦は2月15~18日、雪と氷に覆われたスウェーデンで行われるシーズン唯一のオールスノーラリー「ラリー・スウェーデン」です。
<文=青山朋弘 写真=Redbull/TGR>